ひと口サイズの文学:易しい英語の短編小説18選
トレーニングもせずにマラソンを走ったことはありますか?
普通はそんなことしませんよね。筋肉を痛めてしまいます。
大きなことを成し遂げようと思ったら、小さなことから始めなければいけません。
けれども、外国語学習に関して言えば、ほんの少しの文章で大きな考えを理解できることがあります。
複雑な概念を理解するのに、なにも何年もかける必要はないのです。
外国語を学んでいる途中だからといって、思考を制限する必要はありません。
こういった物語は現実を超えたものですから、少しの文章を読むだけで大きな概念が理解できてしまうのも当然なのかもしれません。
そしてそのためには、より優れた小説を読むほうが良いに決まっています。
今回は、初心者にも分かりやすい言葉で書かれていながらも、受賞歴のある短編小説についてお話しします。これらの短編小説を読めば、英語の読解力を高められるだけでなく、新しい世界へ心を開くことができるかもしれません。
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短編小説が英語学習に向いている理由
- それぞれの言葉についてじっくり考えられる。文章が短いと、使われている単語一つひとつに時間をかけられて、それらが作品中でどのような重要性をもっているのか考えることができます。
- 一気に読み切ることができる。学習において集中力の持続時間はとても大切です。また、短編を読み終えることができると、それについて熟考する時間がとれます。短編小説からは、最小限の労力で最大限の情報を得ることができるのです。
- 継続しやすい。全然終わりが見えない長編小説を読むより、毎日短編を一話ずつ読むほうがずっと簡単です。
- グループでもシェアしやすい。短編小説はすぐに読めてしまうので、読書クラブや勉強サークルにも最適です。こういったグループは、メンバーが読書時間を確保できないがために続かなくなるものです。短編小説ならその問題が解決します。
- アイデアや概念に集中できる。言語において大切なのは、言葉そのものというより、その背後にある意味です。語彙や文法にばかり時間を費やしていたら、実際に何を話せばいいのか分からず、いつまでたっても英語を流暢に話すことができません。短編小説なら大きな概念をストーリーの中で理解することができます。
大きな思想を描いた易しい英語の短編小説18選
1. “The Bogey Beast” フローラ・アニー・スティール著
読解レベル:とても易しい
あるおばあさんが仕事からの帰り道に宝の鍋を見つけます。幸運に思ったおばあさんはそれを持って帰ることにしました。ところが、家に持ち帰る途中、鍋はころころ姿を変えていきます。それでも、おばあさんは感激し続けるのでした。
この話の良いところ:この物語に登場するおばあさんは英語のフィクション界でも有数の陽気なキャラクターです。ポジティブな性格の彼女はどんなネガティブな出来事も喜び、運はものの見方次第なのだと教えてくれます。
2. “The Tale of Johnny Town-Mouse” ベアトリクス・ポター著
読解レベル:とても易しい
村ねずみのティミー・ウィリーは野菜かごに入って町まで運ばれてしまいました。目が覚めるとパーティーにいたティミーは、そこで友達を作ります。ティミーは町の生活に耐えられなくなったので家に帰り、友だちを村に招待します。ところが、友だちが彼を訪ねると、またまた似たようなことが起こったのでした。
この話の良いところ:人間は歴史のほどんどを町や村なしで生きてきました。つまり、町や村は新しく作られたものなのです。その他に新しく作られてきたものと同じく、人はその利点と欠点について考えてみなければいけません。
この物語にはまさにそういったテーマがあります。短い段落で書かれており、それぞれのシーンには挿絵もあります。すぐに読み始めたい初心者にぴったりの作品です。
3. “The Night Train at Deoli” ラスキン・ボンド著
読解レベル:易しい
ラスキン・ボンドはよくデラドゥンにある祖母の家で夏を過ごしました。電車に乗っていると、デオリという小さな駅を通り過ぎます。いつもはこの駅で電車を乗り降りする人は全くいませんでした。ところがある日、デオリ駅でフルーツを売る少女を目にして以来、彼女のことを忘れられなくなります。
この話の良いところ:ラスキン・ボンドは深みのある感情をシンプルに表現できる作家です。この話は他人に対する愛着や、どうして二度と会わない人に対して愛着をいだくのか、というテーマを描いた作品です。
4. “There Will Come Soft Rains” レイ・ブラッドベリ著
読解レベル:易しい
地球は戦争で破壊され、もう人間の姿はありません。しかしロボットや機械はなおも機能しており、とうの昔に死んでしまった人間のために働き続けています。
この話の良いところ:このタイトルは、人類がいなくなった後も自然の営みは続いていくことを描いた詩から借用されています。しかしこの小説では、自然はあくまでわき役であり、機械が地球を支配しているのです。
作品中のロボットや機械は、人間や自然のサポートなしで動き続けています。人の生活においてテクノロジーが自然と取って代わり、それらが人間を破滅に導き、人間なしで動き続ける可能性を示唆しています。
5. “Orientation” ダニエル・オロスコ著
読解レベル:易しい
ユーモアたっぷりのこの物語では、語り手が新入社員にオフィスの説明をしたり、スタッフの噂話をしたりします。文は短く、特に難しい単語も使われていないため、とても簡単に読むことができます。現代のオフィス生活のバカバカしさや、全く道理にかなっていない様子などを描く本作は、仕事をする読者ならきっと共感できるはずです。
この話の良いところ:現代の職場は、実際に仕事を終わらせるというより、仕事をするふりをする劇場みたいに感じることがあるものです。語り手は誰も認めたがらないこの現実をあぶり出します。オフィスの窓から見える景色から、肥満の独身者や連続殺人犯など人々の生活のささいなことに至るまで、様々なことが過剰に描写されます。
この小説では、誰も口にしないこと、例えば職場の人々が互いの家庭の深い秘密を知っているのに、誰も口には出さない様子などが語られています。その秘密は、まるで目に見えるけど目立たない観葉植物のように、オフィスの環境に溶け込んでいくのです。
それを示すかのように、同僚の妻の悲劇的な死が、オフィスのコピー機や冷蔵庫について語るのと同じ淡々としたごく普通の口調で語られています。こういった不合理なバランスが、この小説の軽さと深さを同時に作りだしているのです。
6. “Paper Menagerie” ケン・リュウ著
読解レベル:まぁまぁ易しい
ジャックの母親は折り紙で作った動物に命を吹き込むことができます。ジャックはそれが大好きで、母と多くの時間を過ごしました。しかし彼は成長すると、英語を話せない母親と会話をするのを止めてしまいます。
母親は紙の動物たちを通してジャックと会話しようと試みますが、彼は動物たちを殺して箱の中に仕舞ってしまいます。その後ついに、ずっと前に知られるべきだった母のストーリーを、隠されたメッセージを通して知るのでした。
この話の良いところ:この小説ではシンプルな語り口で複雑な問題に触れられています。より良い人生のために祖国を離れるということについての物語です。
また、異なる文化や言語がぶつかり合って起きる家族の問題もテーマとなっており、母と息子との絆さえ壊してしまうような張り詰めた親子関係が描かれています。愛する人の存在を当たり前に思ってはいけないという心を揺さぶるメッセージも込められているのです。
7. “The Missing Mail” R.K. ナラヤン著
読解レベル:まぁまぁ易しい
村の郵便配達員のタナッパは、ラマヌジャンと彼の家族の良い友人です。彼はラマヌジャンの娘が結婚に失敗したことを知り、娘がふさわしい相手と婚約するよう事を運びました。結婚式の直前に、タナッパはラマヌジャンの兄から悲しい手紙を受け取りますが、それを配達しないことに決めます。
この話の良いところ:良かれと思ってやったことで、愛する人たちを意図せず傷つけてしまうことがあります。人間関係や感情の複雑さはどんな社会にもあるものですが、人はみんなそれをよく理解できていないのです。
注:この物語は著者の短篇集の一部として、こちらからPDFで読むことができます。
8. “Harrison Bergeron” カート・ヴォネガット Jr.著
読解レベル:まぁまぁ易しい
時は2081年、人類は強制的に平等にされました。何かしら人よりも優れた才能がある者は、政府によってハンディキャップを背負わされています。
頭の良い人は心をかき乱す音によって思考を邪魔され、才能あるダンサーは上手く踊れないよう重りを身につけています。魅力的な人は他の人たちよりも美しくなりすぎないよう醜いマスクを着けています。ところがある日、反乱が起き、全ては一瞬にして変わってしまいました。
この話の良いところ:テクノロジーは人間をより良くするためのものであるはずです。しかしこの話では、人の才能を無効にするために利用されているのです。さらに、平等主義や画一主義などといった考えをやみくもに利用すると、人間はより苦しむことになるのだと示されています。
9. “The School” ドナルド・バーセルミ著
読解レベル: まぁまぁ易しい
とある教師が学校で最近起きた出来事を語ります。校庭の木が枯れてしまったことを皮切りに、あらゆる種類の死が身の回りで起こりはじめるのです。
この話の良いところ:死との向き合い方について子どもに教えたいと思っても、当の大人もそれをよく分かっていません。人生の最も基本的なことにどう対処すべきかは教えてくれない、そんな教育制度の無力さに気づかされます。
生徒たちはすっかり困惑しており、大人たちは彼らをこれ以上怖がらせないよう、子どもたちの前で愛情を実演して見せます。このように、分かっているふりをして死について説明する大人たちの力不足な様子が描かれています。こうして人生の問題を誤解し、回避し続けるサイクルは繰り返されるのです。
10. “Girl” ジャメイカ・キンカイド著
読解レベル:まぁまぁ易しい
ある母親が娘に人生を正しく生きる方法を教えます。娘もこれに対して異論はなさそうです。
この話の良いところ:プロットのようなものは無いため、厳密には小説ではないのかもしれません。この作品では、少女たちが小さな頃からいかに制限された生活を送っているかが描かれています。母親は娘に家事のやり方を教え、それが唯一の人生なのだと示すのです。
母親は娘に、目立たないようにしてなさい、男の子に話しかけてはいけません、男の人に近寄ってはいけませんと言います。一方で、幸せに生きるためには男たちの目に魅力的に映らなければいけない、ともほのめかします。
この話では、少女たちが成長するとぶつかる葛藤がテーマとなっています。
11. “Rikki-Tikki-Tavi” ラドヤード・キップリング著
読解レベル:まぁまぁ易しい
“Rikki-Tikki-Tavi”はインドにいる一家をよく訪れるマングースの話です。家族はマングースにご飯を食べさせ、家の中を自由に歩き回らせますが、いつか息子のテディに噛みつくのではと心配しています。ある日、蛇がテディに襲い掛かろうとしたとき、マングースは蛇を退治します。彼はついに一家の一員として迎え入れられたのでした。
この話の良いところ:人間と動物が一緒に仲良く暮らすシンプルな物語です。古い話ですが、言葉はかなり易しく、理解しやすいはずです。動物も人間と同じように愛情を感じることができ、愛する人を守ってくれることもあるのだと思い出させてくれます。
12. “Little Dorrit” チャールズ・ディケンズ著(ジェシー・L.ハールバット編)
読解レベル:まぁまぁ易しい
父親が投獄されているため、リトルドリットは生まれた時から監獄暮らしです。借金を返済できず、一家全員が獄中で暮らしているのです。
外の世界を夢見るドリット一家と、監獄を出ることになっても助けてくれた人たちへの恩を決して忘れないリトルドリットの物語です。
この話の良いところ:不公平な法は、しばしば貧しい人々にのみ負担となるものですが、“Little Dorrit”ではそういった世の中の仕組みが明らかに描かれています。物語中では借金を抱えた人々が政府によって負債者監獄に入れられていますが、これは子どもの頃父親の借金によって似たようなことを経験して以来、著者ディケンズが憎んでいた当時の習わしです。この物語では裕福な人々が貧しい人々から搾取する様子があぶり出されています。
13. “To Build a Fire” ジャック・ロンドン著
読解レベル:まぁまぁ易しい
ある男がユーコンと呼ばれる凍える極地を旅します。犬を一匹連れたこの男は、道中で人々のアドバイスを無視し、自分の命は大丈夫だと高を括っています。ところが彼は本当の自然の脅威を目の当たりにし、人間の命の脆さにやっと気が付いたのでした。
この話の良いところ:古典的な生きるか死ぬかの戦いは、いつだって読者を魅了するものです。自然はおそれ敬われるべき脅威としてみなされることも多いですが、この物語の主人公は軽率で、役に立つ助言を得ていたにも関わらず、愚かな間違いを犯します。男は自然の力を見くびりすぎていたようです。
動物たちは、危険な状況においては注意深く賢いものです。自然に対処しきれなかった男か、それとも生き残った犬か、本当に賢いのはどちらなのだろうと考えさせられます。
14. “Evil Robot Monkey“ メアリ・ロビネット・コワル著
読解レベル:中級
チンパンジーのスライは仲間よりもずっと頭が良く、ろくろの上の粘土で遊ぶのが大好きです。ところがある日、子供たちにいじめられたスライはかんしゃくを起こして怒ります。これを見た先生は罰として粘土を取り上げてしまいます。
この話の良いところ:スライは社会に溶け込むことができないキャラクターです。チンパンジーにしては頭が良すぎ、人間には受け入れられません。そして、自然な感情に従ったために罰を受けます。しかし最後に彼が怒りをコントロールする様子は、多くの人間よりも成熟して見えます。この作品はヒューゴー賞にもノミネートされ、スライのキャラクターは多くの読者の共感を呼びました。
15. “The Zero Meter Driving Team” ジム・シェパード著
読解レベル:中級
チェルノブイリ原発事故は20世紀最大の致命的な事故でした。この物語は、ある父親と息子たちの視点からこの出来事を描いた作品です。この家族は不幸にも事故の起きたエリアの近くに住んでおり、事故の詳細を語ります。
罪のない命を奪い、多くの人々を汚染した大爆発の元凶である、システムの堕落が明らかにされます。
専門用語(外国の言葉など)があるせいで少し難しい文章となっていますが、話の流れは比較的分かりやすいものです。
この話の良いところ:政府が人々に嘘をつくのは周知の事実ですが、こういった嘘は人の命に関わることもあります。そういうものだと受け入れてしまいがちですが、この話はそういった無関心がもたらす代償に気付かせてくれます。
また、いくつかの短いパートに分けられているため、簡単に、楽しみながら読むことができます。当時のソビエト連邦での生活を垣間見ることもできるでしょう。その他の優れた短編小説と同様、人間模様についても書かれており、人間関係が歴史的な出来事でどう変化するのかもテーマの一つとなっています。
16. “The Monkey’s Paw” W.W.ジェイコブ 著
読解レベル:中級
インドから来たある男が、3つの願いを叶えるという魔法の猿の手を持ってきました。ホワイト一家はそれを手に入れましたが、願いは叶わない方が良いこともあるのだと思い知らされます。
この話の良いところ:人は何かを願っていても、その結果まで考えることはなかなかないのかもしれません。この物語では、願いが叶った結果誰かが死んだり、悪いことが起こったりして、登場人物たちはすぐに後悔することになります。彼らは自分たちの願いによって人の命が奪われるなんて考えてもみなかったのです。
17. “The Story of an Hour” ケイト・ショパン著
読解レベル:中級
マラード夫人には心臓に疾患があり、命を落とす可能性があります。彼女の夫が亡くなったとき、人々はこの知らせをなるべくそっと伝えようとします。しかし彼女は知らせを聞くと、泣き崩れて部屋にこもってしまいました。
マラード夫人は将来のことを考えているうちに、夫が亡くなったことで得られた自由な生活がむしろ楽しみになってきました。ところが、一時間後にドアベルが鳴ったので玄関に出てみると、生きた夫がそこに立っていたのです。彼の姿を見た彼女は心臓発作を起こし、亡くなってしまいました。
この話の良いところ:結婚は女性にとって牢獄にもなり得ます。この物語の夫婦も、重荷のような結婚生活を送っていたようです。マラード夫人は悲しんでいるものの、夫から解放される希望で元気に生きていけるはずでした。
しかし、元の生活に戻るのだと分かった途端、身体がそれを受け付けなかったのでしょう。ほんの短い間で悲しみと希望が交差する矛盾した人間の感情や、それが心と体に与える影響などが描写されています。
18. “A Tiny Feast” クリス・エイドリアン著
読解レベル:中級
主な登場人物はシェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』から借用されていますが、ストーリーやコンセプトは全く別物です。妖精たちの統治者ティターニアとオーベロンは、結婚生活に問題をかかえています。ある日彼らは人間の子どもを見つけ、この子が関係を修復してくれると願って養子にすることに決めました。
ところが、その子どもは致命的な病気を患っており、病気や死を知らない妖精たちはどうしていいか分かりません。未知のものを理解しようとすることや、自分とは全く異なる他人を深く愛することについて描いた悲劇です。
この話の良いところ:想像上の生き物を通して人間関係を描いた物語です。親の辛さや、親と子の複雑な関係などがテーマとなっています。また、人間が未知のものや無力感などに直面する瞬間が、美しく捉えられています。
これらの短編小説を楽しんで、英語を上達させましょう!
ディリティマン・レイはフィクション、詩、ノンフィクションのライターです。教育、哲学、ライフスタイル等を専門としています。詳しくはこちらからご覧ください。